文庫本の黄ばみが発生する理由。なぜ数年で黄色くなるのか?

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文庫本

 

文庫本って黄ばむものだと思っている人が結構いるんじゃないかと思います。特に年配の人はそう思っているんじゃないでしょうか?

しかしそれは20年前くらいより以前に出版された文庫本の話で、ここ10年くらいのことを考えると文庫本は黄ばみにくくなっているんですよね。

紙が黄ばむ原因は木材由来のリグニンという成分が含有されているからなんですが、昔の文庫本にはこのリグニンが含有されている機械パルプという種類のパルプが多く配合されていました。

しかし、紙の黄ばみが問題になったころから機械パルプの配合をやめて化学パルプに置き換え、紙を製造するときのPH(抄紙PH)も酸性から中性に変わってきているんです。

逆に言うと機械パルプが配合されていた時代の文庫本はどんなに大切に保管したとしても黄ばみます。

だから昔の文庫本はどんなに大切に保管しても黄ばむが最近の文庫本は大切に保管すればそう簡単には黄ばまないというのが正しい認識だと思います。

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文庫本の黄ばみを防止する方法

本の黄ばみを防止する方法の詳細はこのブログの「本の黄ばみを防止する方法 変色の原因と保管場所」という記事にも書きましたが、文庫本が黄ばむ原因成分はリグニンで、光、酸素、熱によって変色しますので、光に当てないように保管するというのが重要です。

紫外線が紙を劣化させますから日光はもちろん蛍光灯の光なんかにも注意してください。

とはいえ現実的にできることは本棚にあまり光が当たらないようにするということくらいでしょうか。

ただし、リグニンを含有している機械パルプが配合されている古い文庫本の場合はどんなに気を使っても数年で黄ばみますから、これについては諦めるしかないようです。

文庫本が黄ばんでも文字は読めるわけですし。

文庫本が黄ばむと分かっていてなぜ機械パルプを使っていたのか

機械パルプにリグニンが含有されていることは、このブログの「本の黄ばみを防止する方法 変色の原因と保管場所」という記事に記載しましたので興味がある人はそちらを参照してください。

本の黄ばみを防止する方法 変色の原因と保管場所

ではなぜ長期保管されると分かっている文庫本に機械パルプを配合していたのか、という本音のところを元製紙会社の技術者としてお話します。

まず大前提として、紙を製造する側で根強い信仰みたいなものがあります。

それは、「白い紙は高級である」ということです。

現在はどうなっているのかは分かりませんが、少なくとも自分が在籍していた時代は「白いは正義」みたいなところがありました。女性に例えて「色の白いは七難隠す」などとも言われていました。

だから紙を製造する側としては「黒い紙には黒いパルプを使うのは当然」だったわけで黒い紙に白いパルプを使用して黒い染料で色を調整するなどもってのほかという考えだったわけです。

それは当然のことで白いパルプにするためには漂白工程が必要で、そこには薬品費がかかっているわけですから、品質的に問題が発生すると分かっていても「なぜ高いパルプを使うのか」という話になるわけですね。

こういう文化の会社で製造されていましたから、文庫本用紙のような比較的白色度の低い紙の場合、出来るだけ黒いパルプ(機械パルプや古紙パルプ)を多く配合して、白色度の高い化学パルプの配合量を減らすという品質設計にしていました。

もちろん、品質設計上機械パルプを配合しなければ嵩が出せない(機械パルプを配合したほうが化学パルプより嵩高くなる)という理由もありましたが、機械パルプを使用していた本当の動機は白色度が低い紙には白色度の低いパルプを使用するべきだ、という信仰にも似たものだったと思います。

しかしながら時代は流れ、「文庫本は黄ばむものだ」という考えは通用しなくなってきました。

自分が製紙会社をやめる頃には色んな品種の紙で酸性抄紙からの中性抄紙化も進み、劣化しない紙を作るという品質要求に答えるためには高い白色度のものを染料で低くするというのも仕方がないという雰囲気になっていました。

そのため文庫本もパルプ配合の見直しが行われ、機械パルプの使用をやめて白色度は染料(白色度を下げるためにブラック染料も使っていたと思います)で行うという方向に変わっていきました。

最近のライトノベルに使われるような文庫本用紙は化学パルプ主体の中性紙になっているのではないかと思います。

文庫本用紙は中質紙に分類される

もうちょっと専門的な本音の部分をお話させてください。

そもそも、文庫本用紙というのは紙の分類でいくと中級印刷用紙の印刷用紙Bというカテゴリで、白色度は75%以下というのが規格です。

通称「中質紙」と呼ばれるカテゴリです。この規格には白色度が規定されているだけでパルプ配合は規定されていません。

しかしながら当時の常識としては、白色度75%以上なら化学パルプ(この場合は晒クラフトパルプ)100%、白色度75%以下の場合は白色度の低い機械パルプや古紙パルプを配合しているものというイメージでした。

ですから当然文庫本用紙は機械パルプを配合する紙であり、文庫本を黄ばまないようにしてくれという要求は常識外れだったと思います。

結局は時代の流れで化学パルプ100%で製造することで黄ばみにくくしたわけなんですが、こんな品質設計にしたら文庫本用紙は中質紙ではなく色上質紙じゃないかと思ったものです。

正直言うとこれってなんか違うよなと。

紙は黄ばんだり劣化したりしないほうがいいに決まっているんですが、電子書籍が当たり前になってきている時代、そして流行り廃りが激しいラノベのような文庫本に劣化しない紙が必要なんでしょうか?

こういうことで技術は進歩するものなんだろうと思う反面、これって日本特有の無駄に厳しい品質要求なんじゃないかと思ってしまうのです。

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