紙の劣化を防ぐには?原因と光とリグニンや酸性と中性の関係

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管理人の紙コンサルこと、
べぎやすです。

このカテゴリでは紙の劣化について
お伝えします。

よく知られているのが、
洋紙の古い文献などを和紙で補強するとか、

和紙は千年持つが、
洋紙は劣化しやすいということ。

日本では明治以降、
洋紙の製造技術が導入されましたが、

これ以降の紙は劣化しやすく、
数十年でボロボロになってしまいます。

では長持ちする和紙との違いはなんなのか?

その大きな理由は原料と
酸性紙か中性紙かの違いになります。

ということでこのカテゴリでは、
紙の劣化の原因や仕組みと

その防止策について、
自分なりにお伝えしたいと思います。

【紙の劣化の原因】

和紙が長持ちして洋紙が劣化しやすい。

先程その違いは原料と
サイズ剤の定着方法であるとお話しました。

何がどう違うのか、
これらを見ていきたいと思います。

<原料の違い>

(和紙の原料)
昔は楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・
雁皮(がんぴ)という低木。

現在は木質部(芯の部分)と
外皮の間にある「靭皮(じんぴ)」

(洋紙の原料)
外皮だけ剥いで木質部を使用する。

ということで、
現在はどちらも木材を使用しますが、

和紙はリグニンが
少ない部分を選んで使っています。

このリグニンは木材の中では
セルロースを固める役割で、

木材が高く成長するには
どうしても必要な成分です。

しかし、光が当たると
木材の樹皮のように変色します。

これが紙が黄変化する
ひとつの原因なんですね。

現在リグニンが含まれる紙は、
新聞紙や雑誌に使われる更紙、中質紙など。

基本的に白色度が低い紙です。

これらの紙は長期保存が想定されておらず、
品質的にリグニンが必要な紙になります。

<酸性紙か中性紙か>

この酸性紙と中性紙の違いというのは、
にじみ防止のために使う

サイズ剤の定着方法の違い、
ということになります。

和紙には筆と墨で書くわけで、
にじむのは当たり前です。

むしろそれが味があっていい、
とか言われます。

一方洋紙ではインクとペンで書いて
にじんではいけない。

そのため洋紙には、にじみ防止薬品、
(サイズ剤と呼ばれます)を添加します。

しかしこの薬品は、
水がにじまないための薬品ですから

疎水性(水になじまない)なので、
親水性のセルロースには定着しにくい。

なんとかサイズ剤を定着させよう、
ということで使われたのが硫酸バンド。

そしてこの硫酸バンドを使うと
紙が酸性になります。

理屈はかなりややこしいんですが、
紙が酸性になるのは

にじみ防止薬品であるサイズ剤を
定着させるために使う

硫酸バンドの影響によるものだ、
というわけです。

これでようやく酸性紙になる
理由が分かったんですが、

問題はこの硫酸バンドにあります。

硫酸バンドの正式名は
硫酸アルミニウム。

このアルミニウムイオンの部分があるので
セルロースにサイズ剤が定着するのですが、

問題は硫酸イオンの方です。

名前の通り硫酸ですから、
大抵の物質は酸化劣化します。

当然セルロースもやられます。

特に湿気が多いと硫酸イオンによる
劣化が進みやすい。

だから酸性紙は劣化が進みやすい、
という話になるわけです。

その対策として中性紙が出てきた。

硫酸バンドを使わなくてもいいタイプの
サイズ剤が開発され、

今では上質紙はほとんど
中性紙になりました。

コピー紙や白いコート紙も
中性紙になっていると思います。

しかし、新聞紙、中質紙、更紙などは
なかなか中性紙化されませんでした。

ここでもリグニンが問題で、
上質系中性紙に使うサイズ剤は

リグニンが入っている紙には
うまく使えないという問題があったんですね。

サイズ剤がセルロースに定着して
サイズ効果を発揮してほしいのに、

リグニンが先に結合して邪魔をする
(アニオントラッシュと呼んでいましたが)、

そういう現象が起こるので
技術的に難しかった。

また、硫酸バンドがコスト的に安いので、
長期保存が不要な紙を中性紙化しても

コスト的に高くなるということで
中性紙化が遅れたんですね。

最近は技術が進展し、
新聞用紙は中性紙化されています。

新聞紙の場合は新聞社の意向などがあって
中性紙化しているんだと思いますが、

まだまだ多くの更紙や中質紙は
酸性紙だと思います。

リグニンが含まれる限り
中性紙にしたところで黄変化はするので、

コストのことも考えれば
中性紙化をする意味がないのでしょう。

このあたり製紙会社としては、
紙の劣化対策が必要なものと

そうでないものを分けて
製造しているのだと思います。

【紙の劣化対策】

ここまで紙の劣化原因は説明しましたが、
ではユーザーとしての対策は?

現実的な対応としては、
冷暗所に保管するくらいです。

最近の上質系中性紙ならば
そこまで気を使わなくても劣化はしません。

しかし新聞紙や中質紙、更紙の場合、
日光や蛍光灯の光でも黄変化します。

リグニンが含有されているからです。

また紙は吸放湿しますので、
なるべく湿度変化の少ない場所を選ぶ。

どうしてもいい状態で保管したいというなら、
ビニール袋とかフィルム包装とか

ちょうど食品の酸化を防ぐのと

同じような対策をすればマシにはなります。

しかしそれでは、
本が読みたい時に読めないわけで、

管理人としては
あまりおすすめできません。

やっぱり現実的には
日光があまり当たらない

乾燥した場所に本棚を置いて
保管するのがいいかなと。

【管理人のまとめ】

今回は紙の劣化についてのお話でした。

紙の劣化はリグニンと硫酸バンドが原因。

だからこれらを除いた
上質系中性紙は劣化しにくい。

また保管環境としては冷暗所がいい。

特に光による劣化が激しいので
日光や蛍光灯の光に注意したいです。

いずれにしても紙は劣化します。

だからこそ大切なものは丁寧に
注意して扱って欲しい。

少しでも紙の寿命を
延ばしてあげて下さいね!

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