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コート紙とマットコート紙は何が違うのか?
並べて比較してみれば一目瞭然で、白紙光沢が全く違うということが分かります。
白紙光沢というのは白紙面がピカピカというかテカテカしている感じのことです。
ではなぜコート紙の中に光沢の高いものと低いものがあるのか、どういう意図でどういう用途のために開発され分化してきたのでしょうか?
この記事ではその理由についてお伝えしたいと思います。
コート紙とマットコート紙について
まずコート紙とマットコート紙について簡単に説明しておきます。
本来コート紙は紙に塗料を塗工したものの総称です。
その分類方法はいくつかあり、光沢の高いグロス系コート紙と光沢の低いマット系コート紙に分けるというのもその一つです。
ただし一般的にはコート紙といえばグロス系コート紙のことを指しますので、ここでも光沢の高いコート紙をコート紙、光沢の低いコート紙をマットコート紙と呼ぶことにします。
さて元々コート紙は印刷上がり改善を目的に上質紙に塗料を塗工したものでした。
ですからそもそも高級印刷に使われていたんですね。
現在もアート紙と呼ばれて写真集や高級カタログやポスターに使われていますが、出発点はそういう高級な紙でした。
ですから白紙光沢も高く、印刷光沢も高いピカピカの紙だったわけです。
しかしピカピカの紙は写真印刷にはいいが文字が多い雑誌やもうちょっと落ち着いた雰囲気の書籍には向かない。
ということで白紙光沢をおさえたマットコート紙が開発されてきました。
その後コート紙は低価格化が進み、安売りのチラシでさえ薄手の安価なコート紙が使われるようになっています。
高級なものから安いものまであらゆる分野をカバーしている感じがします。
一方マットコート紙は書籍とかムック本などに多く使われています。
たまにチラシにも使われていますが落ち着いた感じが欲しい不動産のチラシみたいな用途が多いですね。
その後さらに技術が進化して、高級だけど落ち着いたしっとりした感じを出したいという場合はマットコート紙の中でも「ダル調」と呼ばれるものが開発されています。
白紙光沢は低いけれど印刷光沢は高くなり印刷物が浮き上がってくるように見えるという紙で、これは美術品の写真集なんかに使われています。
こんな感じでコート紙の用途に合わせて要求される品質を満たすために、コート紙が分化してマットコート紙が開発されてきたというのが実際のところです。
コート紙とマットコート紙の製造方法の違い
ここからは実際にコート紙やマットコート紙に関わってきた元製紙会社社員としてお話をさせて下さい。
自分が入社した平成元年頃は、マットコート紙はコート紙の平滑度を下げたものという程度の紙でした。
コート紙はスーパーカレンダーと呼ばれるもので紙にとても強い圧力を加えて表面を平滑にし白紙光沢を出しているんですが、
マットコート紙はそのカレンダーの圧力を弱くして白紙光沢があまり出ないようにするという感じで製造されていました。
今でもそういうレベルで製造されている品種はあると思います。
しかし、だんだんとマットコート紙の品質要求も高くなり、白紙光沢が低くても印刷光沢は高くして欲しいなど、先述の「ダル調」を求められることが多くなりました。
それには通常のコート紙と同じ塗料配合では要求に応えることが出来ないので色々と工夫をしたことを覚えています。
印刷光沢を高くするためにカレンダー圧力を強くしたいがそれでは白紙光沢も高くなってしまうので、塗料に使われている顔料の炭酸カルシウムの配合量を増やしてみるとか、
平板な形状の粒子径の大きいクレーを入れてみるとか、ラテックスと呼ばれる塗料に使用する接着剤の性能を改善してもらうとか。
色々テストをしたものです。
そうやってラボテストで品質的に使えそうなものが出来ても、実際に塗工機で塗工してみると塗料の流動性が悪くて塗工速度を上げることが出来ずまともな生産にならなかったこともありました。
スーパーカレンダーの通し方とか条件なんかも色々調整してましたね。
製品になった後でも、断裁時に製品が金属とこすれるとコインスクラッチと呼ばれる黒い筋が出来てクレームになるとか。
表面の平滑度が低すぎて印刷時に塗料が印刷機に付着して印刷できなかったりとか。
白紙光沢が低い紙を作るというのは口で言うのは簡単ですが、やってみると思った以上にややこしいものでした。
そんな感じで色々苦労をしたにも関わらずマットコート紙の需要はコート紙よりもかなり少なく大して売上に貢献できなかくて残念だったこともありましたね。
このようにコート紙とマットコート紙はどちらも上質のコート紙で白紙光沢が違うだけの紙のように見えるのですが、その製造工程や塗料配合などはかなり違うものになっているのです。
管理人のまとめ
コート紙やマットコート紙の開発に関わった人間としての本音を言うと、高級なマットコート紙は落ち着いたしっとりとした風合いで印刷の見栄えもよく白紙がギラつかないから目に優しいということで非常にいい紙だと思っています。
今や紙媒体はスマホに取って代わられて来ていますが、このマットコートの風合いというのは紙ならではのものだと思うので生き残ってもっと広まってくれるんじゃないかと期待しているんです。