紙の白色度と節水の関係。十分な水がないと白さが出ない理由

記事内に広告が含まれています。

この記事は約 8 分で読めます。

紙 白色度 節水

 

管理人の紙コンサルこと、べぎやすです。

この記事では、紙の「白さ」を左右する重要な要素である「水」と、その水が不足した際にどういった影響が出るのかについて詳しく解説します。

管理人は元製紙会社の社員として、現場で実際に経験してきた知識やエピソードをもとに、「紙の白色度」と「節水」の間にある関係性についてお伝えします。

スポンサーリンク
スポンサーリンク

紙の白色度は水が濁ると低くなる。節水すると水は濁る?

紙の製造において「水」は不可欠な資源であり、その使用量は他の多くの産業と比較しても極めて多く、特に抄紙工程では大量の清水が求められます。紙の原料であるパルプは、水に均等に分散されることで初めて薄くて均質なシート状の紙として成形可能になります。製紙の初期段階では、1%にも満たない濃度でパルプが水に浮遊しており、これを高速で走る抄紙機に流して脱水・乾燥していくのが基本的な工程です。

最終的な紙には6〜7%程度の水分が残るだけで、実に90%以上の水が蒸発・排水されるか、循環利用される形で使われています。したがって、使われる水の量と質は、製品の品質に直結する極めて重要な要素です。特に「白色度」は、水の透明度や含有する微細成分の影響を受けやすく、使用水に不純物が混ざるとパルプの繊維間にその影響が及び、白さが鈍くなってしまいます。

このような背景から、製紙業界では「水の管理」が品質管理の根幹に位置付けられているのです。ところが、夏場の渇水や長期的な干ばつなどの自然環境の変化により、水源であるダムや河川の水位が低下すると、工場への取水が制限されるケースがあります。このような状況では、工場は再利用水(再生水)を用いることで対応せざるを得ません。

再生水は、工程排水をろ過や薬品処理して再利用できるようにした水で、ある程度の清浄度までは回復できます。しかし完全に川から得られる清水と同じ状態にはならず、微量の有機物や無機物が残留する可能性もあります。また、処理施設の運転にはコストがかかるため、どこまで清浄度を高めるかは、品質と経済性のバランスの上に成り立っています。

特に「白色度」が命である「上質紙」は、使用するパルプもすべてが漂白済みの高品質なLBKP(ラフト漂白針葉樹パルプ)などに限定されるため、水の質がわずかに悪くなっただけでも、白さに微妙な変化が生じることがあります。製品の白色度が規定値を下回ることは稀ですが、設計値の下限近くでの製造を余儀なくされるケースも出てきます。

一方で、新聞紙、更紙(ざらがみ)、中質紙といった比較的白色度の基準が緩い紙では、黒パルプ(未漂白パルプ)との混合比率を調整することで白さの調整が可能な場合があります。ただし、この調整にも限界があり、パルプの配合計画全体を見直す必要が出てきます。これは在庫管理、投入計画、操業日程にまで影響を及ぼし、結果として、調整作業が増えれば増えるほど現場の負担とコストが膨らんでしまいます。

製紙工場の節水は何%程度まで出来るのか?

ここでは実際の製紙工場での経験に基づいたエピソードをご紹介します。

管理人がかつて在籍していた製紙工場では、異常気象による深刻な水不足に直面し、過去に最大で65%の節水を強いられたことがありました。この水準は、通常時に使用していた水量のうち、実に3分の2近くを再利用水や処理水に切り替えたことを意味します。このような事態は製紙工程に大きな影響を与え、工場全体の操業に深刻な影響を及ぼしました。

大型の抄紙機は常に一定の水圧と流量を必要とするため、完全に停止させるわけにはいかず、運転の継続が優先されました。その一方で、比較的小規模な機械や非連続系のラインを一時的に停止し、操業スケジュールをずらすなどの工夫が重ねられました。こうした対応は、生産性の低下や段取り替えの増加といった副次的な負担をもたらし、現場では緊張感の高い状態が続いたのです。

幸運にもその後に雨が降り、水位が回復したことで事態は改善しましたが、この経験から得られた教訓は非常に大きなものでした。水資源の管理は一企業の判断だけで完結するものではなく、水利権や地域の水道計画、行政との協議といった社会的な枠組みの中で調整されるべき問題です。

また、環境に対する配慮も必要不可欠です。製紙業は排水処理や水質保全の観点からも厳しい規制を受けており、水の使用をめぐる制限は今後さらに厳しくなることも予想されます。したがって、いかに水を効率よく使い、かつ品質を維持するかが、持続可能な製紙業の鍵になるといえるでしょう。

実際、原料があっても水がなければ紙は作れません。管理人の実感としては、原料供給のトラブルよりも、水不足による影響の方が工場全体の稼働に直結しやすく、より深刻な問題として認識されていました。

管理人のまとめ

今回は「紙の白色度」と「節水」との密接な関係について、実例を交えながら解説しました。

紙という製品は、水を大量に消費することで成り立っています。その中でも「白さ」を保つには、単に水を確保するだけでなく、その水の清浄度を維持する必要があります。節水によって水を再利用する割合が増えると、たとえ見た目に透明でも、わずかな不純物の影響で白色度に影響が出てしまうこともあります。特に白色度の規定が厳しい上質紙のような製品では、こうした変化が品質に直結してしまいます。

もちろん、高度な浄化処理を施せば再生水も清水に近づけることは可能です。しかしその分だけコストがかかり、全工程に導入するには現実的な制約があります。どこに水を使い、どこでリサイクル水を利用するかの判断は、工程全体の設計にも関わってくるため、非常に繊細で戦略的な要素でもあるのです。

製紙業の現場では、「水はただの資源ではない」とよく言われます。それは、水が品質、コスト、環境すべてに関係する極めて重要な要素であり、そこに知見と技術をどれだけ注げるかが企業の競争力に直結するからです。

この記事を通じて、普段私たちが手にする紙が、どれほど繊細なプロセスを経て生まれているのか、そしてその背後にある水資源の重要性について、少しでも理解を深めていただけたなら幸いです。

日常生活では意識されにくい「水が十分に使える環境」のありがたさを、紙の製造という視点から再認識していただければと思います。

(参考)
こんな記事も読まれています。

紙でリグニンが取り除かれる理由?退色や劣化を防ぐためです
https://kamiconsal.jp/kamirigunin/

紙の原料になる木の種類とは?植林したユーカリや松が多い!
https://kamiconsal.jp/kamigenryokisyurui/

感熱紙と普通紙の違いとはなに?熱で発色するかどうかです!
https://kamiconsal.jp/kannetusifutusi/

紙の製造
プロフィール
べぎやす

元製紙会社社員。
技術者として入社し16年間勤務する。
開発技術部門、営業管理部門、現場管理部門など様々な部署を転々としたあと独立。
紙に関するコンサルタントとして今に至る。

詳しい運営者情報はこちらからご確認いただけます。
>>https://kamiconsal.jp/profile/

べぎやすをフォローする
べぎやすをフォローする
タイトルとURLをコピーしました