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管理人の紙コンサルこと、べぎやすです。
今回は画集の紙の名前について。
管理人は絵画や写真には
ほとんど興味が無いのですが。
製紙会社としては非常に気にする紙。
理由は、画集や写真集は印刷用紙の
中でも最高級のものが使われるから。
芸術作品を印刷するとなると
チラシを印刷するのとはわけが違う。
チラシのように今日見たら
明日には不要というわけではなくて、
場合によっては作者が亡くなってから
価値があがることもあるわけで。
それに、紙や印刷のせいで作品の
良さがなくなったとでも言われたら
大クレームになるわけですし、
それはメーカーのメンツにも関わること。
あそこの紙を使ったらクレームになった、
技術力は大したことないとか言われるし。
高級紙は信頼性が命。
安い紙ばかり大量に作るだけの
メーカーだなと言われるわけです。
まともな会社なら屈辱ですよね。
高級な品質を確立する技術、
不良品を出さないようにするための管理。
こういうものの総合的な
技術力が試されているわけです。
では実際に使われる品種は何なのか?
ということで。
この記事では、画集の紙について
管理人なりに調べたことをお伝えします。
画集の紙に使われるのは、コート紙やアート紙
結論から言うと、画集に使われる紙は
厚手のコート紙やアート紙になります。
アート紙でもスーパーアートと
呼ばれる紙が使われますね。
両面印刷されることが多いので
キャストコート紙は少ないです。
また印刷物をより際立たせたい場合は
ダルアートと呼ばれる紙を使う場合もあります。
ダルアートというのは白紙光沢が低く
印刷光沢が高い紙のことです。
米坪としては、
104.7g/㎡、127.9g/㎡、157g/㎡
というのが代表的なところ。
四六判のkg連量でいうと、
<90>、<110>、<135>
になります。
また、印刷方式としてはオフセットの
枚葉印刷が多いですね。
画集や写真集は発行部数も少ないので
オフセット輪転機を使うことは少ないです。
紙としても技術的に対応が
難しいところもあるので。
いずれにしても印刷用紙として
最高級の紙を使っているのです。
画集の紙に使われるアート紙やコート紙の製造技術
ここからは元製紙会社社員としての
管理人の本音をお話させて下さい。
画集の紙は印刷用紙として
最高級とお話してきました。
ただし、使用量は非常に少ない。
だから高単価で販売するために
手間のかかることをやってましたね。
管理人が製紙会社に勤務していた頃は
スーパーアート、ダルアートを開発していて、
ダブル塗工という方法で
塗料を塗工していました。
塗工方法は名前の通りで
同じ面に2回塗工する方法です。
アート紙はとにかく高級印刷ですから
塗工層をできるだけ厚くして
白紙光沢を高くして印刷光沢も
高くするということをやってました。
そのために塗工を2回に分けて
たとえば片面20g/㎡塗工するなら
1回目10g/㎡、2回目10g/㎡
という感じで塗工していました。
これで両面塗工するわけですから
表2回、裏2回の合計4回塗工ですね。
当時のコーターは両面を一気に
塗工できるコーターでしたから、
実際には表裏、表裏、と
2回コーターを通してました。
これって相当作業効率が悪いですよね。
普通のコート紙なら1回で
済むところ2回通すわけですから。
ただし、こういう感じでやらないと
必要な塗工量が得られなかった。
それから、塗料も同じ物を2回塗るのではなく
下塗りと上塗りでは塗料が違っていました。
印刷される表面側には高級な
塗料を使ってましたから
原料費という点では塗工を2回に分けて
高価な上塗りの塗料を減らすというのは
理にかなっていることではあったんですが
とにかく作業性が悪かったですね。
塗料を多く塗工すればそれだけ
乾燥に時間がかかるので
塗工速度が一般のコート紙よりも
遅い上に2回も通すのですから。
しかも、塗工によるロスは2倍になる。
装置産業である製紙会社としては
非常に苦労する紙であったわけです。
アート紙の生産量が多ければ専用の
4ヘッドコーターを設置したでしょうが
そこまでするほど売れる紙でもなかったので
仕方なしに生産していた感じでした。
なお、スーパーアートとダルアートは
下塗りが共通で上塗りで変えてましたね。
スーパーアートは目一杯
白紙光沢が高く刷光沢も高い塗料、
ダルアーとは白紙光沢を抑えて
印刷光沢が高くなる塗料。
ダルアーとの方が後からの開発で
塗料の顔料に粒子径の大きな物を
配合することで平滑度を上げても
白紙光沢が上がらないようにしてました。
ただこれはもう30年も前の話なので
今は塗料処方も大きく変わっているでしょう。
もしかすると大筋は同じかも知れませんが。
画集の紙にオフセット輪転用紙が少ない理由
実は、画集の紙であるアート紙には
オフセット輪転用紙が少ないです。
オフセット輪転用紙はオフ輪用紙とも言います。
これには理由が2つあります。
ひとつは画集や写真集は
数量が少ないということ。
枚葉と輪転を比較すると
速度は圧倒的に輪転機が速い。
だから部数の少ない画集を高速の輪転機で
印刷してしまうと割に合わないんですね。
もうひとつはブリスターの問題があります。
ブリスターというのは火ぶくれのこと。
紙表面が膨らんでしまう現象を言います。
何故こんなことが起こるかというと
オフ輪は強制乾燥させるから。
オフ輪は印刷速度が速いのでインクが
自然に乾燥するまで待てないんですね。
もしも強制乾燥させないとインクが
乾いていないので印刷物を重ねられない。
印刷物を重ねると乾いていない
インクが裏写りしてしまうんですね。
これは作業性が悪いわけです。
だからオフ輪ではインクを強制乾燥させる。
ところが、強制乾燥されると紙の中の
水分が水蒸気になって外に出ようとします。
そのときに塗工が塗工されていると
紙表面がバリア状態になるわけです。
塗工されていなければそのまま
水分は水蒸気となって抜けますが、
塗料でバリアされてしまうと
水蒸気の行き場所がなくなります。
それでも紙の内部強度が強ければ
抜けようとする水蒸気に負けないのですが
内部強度が弱い場合、水蒸気に負けて
ブリスター、火膨れを起こしてしまう。
薄手のコート紙のような場合は塗工量が
少ないので水蒸気が抜けやすいのですが
アート紙は印刷用紙の中でも一番塗工量が
多いのですから水蒸気は抜けにくい。
つまりブリスターが起こりやすい。
需要が少ないし技術的にも問題があるので
アート紙のオフ輪は少ないんですね。
ただし、ゼロというわけではありません。
管理人が在籍していた頃は
オフ輪アート紙の開発もやってました。
残念ながら技術的に出来ても
需要がなかったようですが。
管理人のまとめ
今回のお話は、画集の紙についてでした。
結論としては、画集の紙は
最高級の印刷用紙。
厚手のコート紙やアート紙が使われる。
アート紙の一部とするのか
上級用紙とするのかはありますが、
スーパーアート、ダルアート
と呼ばれる紙が多いということでした。
スーパーアートは白紙光沢、
印刷光沢とも非常に高い紙。
ダルアーとは白紙光沢は低いが
印刷光沢は高い紙になります。
ダル調と呼ばれるんですが
印刷が浮き出すように見える紙です。
また、これらの紙は需要が少ないため
オフ輪よりも枚葉印刷が多いです。
技術的には塗工量を増やすために
ダブルコートを行うことが多い。
こんな感じですね。
画集や写真集は何かあったら大きな
クレームになるので気を使う紙でした。
もしも女性モデルの顔に傷がある、
などと言われたら最悪ですから。
この記事が画集に使われる紙の
参考になればと思います。
画集はいい紙使ってますから、
注意してみて下さいね!