この記事は約 13 分で読めます。
管理人の紙コンサルこと、べぎやすです。
今回は酸性紙の劣化を遅らせる方法。
古本を集めるのが好きな人なら
酸性紙が劣化することはご存知でしょう。
管理人はなんとなく黄ばんだ古本に
懐かしさを感じるのですが、
ボロボロに劣化して
読めなくなるのは困ります。
ところで酸性紙の劣化を
遅らせることは出来るのでしょうか?
管理人が調べたところ
貴重な本を保管する図書館では
それなりの設備があるようですが、
個人で出来るレベルではなさそうです。
この記事では酸性紙が劣化する原因と
防止方法について
自分なりに調べたことを
お伝えしたいと思います。
酸性紙が劣化する原因
まずは酸性紙が劣化する原因。
紙でも洋紙になりますが
これにはペンで書いてにじんではいけない、
ということでサイズ剤という
薬品を添加します。
オフセット印刷適性のためにも必要なので
印刷用紙にはたいてい添加します。
このサイズ剤はロジン(松ヤニ)が
原料なんですが、
これをパルプ繊維に定着させるために
硫酸バンドという薬品を使っていました。
この組み合わせが優秀だったんですね。
それで問題は硫酸バンド。
正式名称は硫酸アルミニウムなんですが、
名前に「硫酸」と付いているとおり、
硫酸とアルミの化合物で、
この硫酸の部分が酸性を示します。
正しくは硫酸イオンになるんですが、
これが強力な酸化剤なわけです。
それで、紙の主成分であるセルロースは
硫酸と接触して酸化劣化する。
酸性紙が劣化する原因は
だいたいこんな感じです。
現在は中性紙の技術が進歩して
硫酸バンドが不要なサイズ剤や
PHが中性でも使える
ロジン系サイズ剤が出てきていますので、
以前の紙のように酸化劣化はしませんが
明治以降洋紙の技術が導入されてから、
洋紙は酸性紙でしたから
明治から昭和までの紙は劣化するわけです。
1940年~1950年代のものが
特にひどいそうです。
なお、現在は上質系はほぼ中性紙ですが
漫画本などはまだ酸性紙も多い。
そのため現在でも雑誌は
酸化劣化するものが多いです。
付け加えると漫画や雑誌の紙は
機械パルプが配合されていることが多い。
この機械パルプにはリグニンが含まれていて
光に当たると黄ばみます。
それは硫酸バンドによる酸化劣化よりも
劣化が速いので中性紙化の意味があまりない。
そういうわけで
現在もまだまだ酸性紙は残っています。
ただし、2007年の国会図書館調査では、
逐次刊行物の95%は中性紙だったそうで、
この10年くらいの上質系の単行本なら
酸化劣化を気にしなくてもいいみたいです。
酸性紙の劣化対策
ここまで酸性紙が酸化劣化する
原因を述べました。
結局は硫酸バンドが悪いので、
紙の保存を考えて硫酸バンドを使わない
という方向に変わってきており、
中性紙が増えています。
しかしすでにある酸性紙はどうするのか?
これが問題です。
その解決方法は硫酸バンドが悪いなら
それを中和しようということになるんですね。
その中和の方法はいくつかあるようで
調べたものをご紹介します。
ただしこれらは図書館がやっていることで
個人レベルではちょっと難しそうです。
酸性紙を中和する方法
これは国会図書館の資料に
記載されていた方法です。
大きく分けて2つあるそうです。
気相法と液相法。
気相法は乾式アンモニア・酸化エチレン法
(DAE法)と呼ばれるそうです。
その説明は以下の通り。
==ここから==
DAE 法は、国内で研究・開発され、
平成 11(1999)年から本格的に
操業を開始した。
処理は、紙の内部までアンモニアガスを
行き渡らせた後、
酸化エチレンガスを導入すると、反応により、
酸を中和するアルカリ物質として
エタノールアミン類が
紙の内部に生成される。
脱酸性化処理そのものに
要する時間は 48 時間である。
この他に前処理として資料中の水分を
できるだけ除去するための真空処理、
後処理として残留ガス除去作業を
行う必要がある。
資料の搬出から納品までの
所要日数は約 45 日である。
資料の搬出入用も兼ねる
プラスチックコンテナ
(W485×L327×H306mm)に入れた後、
コンテナごとチェンバー(処理庫)へ入れて
処理を行う。
チェンバー当たりの1回の処理量は
コンテナ 72 ケース、
重量では 2,000kg までとされている。
==ここまで==
イメージとしては
アンモニアがアルカリですから
それを酸化エチレンガスで
酸性紙に定着させれば
硫酸を中和してくれるから
劣化しないという感じなんでしょう。
これはなかなか大掛かりですし、
前処理に真空処理
後処理に残留ガス処理があるので
どうみてもそれなりの設備が必要。
だいたいアンモニアガスなんて
扱いを間違えたら大変なことになります。
操作が出来る人も
限られているのではと思います。
もう一つは液相法。
これは酸化マグネシウム分散液に
酸性紙を浸漬させる方法。
BK(ブックキーパー)法と呼ぶそうです。
その説明は以下の通り。
==ここから==
BK 法は、米国のプリザベーション・
テクノロジーズ社が開発した方法で、
国内では平成20(2008)年から
操業を開始した。
(本社は米国にあり、
平成 4(1992)年から操業開始)
処理は、不活性な非水溶液中に
酸化マグネシウム(1μm 以下の微粒子)を
分散させた処理液を用いて行う。
この処理液に資料を浸した後、
液体を気化させるとアルカリ物質である
酸化マグネシウムの粒子だけが
紙繊維の間に残留する。
前処理や後処理は不要で、
資料を専用の器具に固定するか、
又はカセットに収納した後、
処理液の入ったトリーターと呼ばれる
機械に入れて処理する。
==ここまで==
酸化マグネシウムはアルカリ性の物質。
これの非水系分散体液の中に
酸性紙を入れてから乾かせば
酸化マグネシウムだけが紙に残るから
硫酸を中和できるということのようです。
液相法の方が気相法より簡単そうですが、
どちらも個人が実施するのは大変そう。
設備もそうなんですが、
薬品が問題でしょうね。
アンモニアとか酸化エチレンとかって
素人が扱っていい薬品じゃないです。
アンモニアは悪臭だけじゃなくて
タンパク質を侵すので
最悪目に入ったら失明しますし、
酸化エチレン(エチレンオキサイド)は
猛毒な上、火花とか
静電気で爆発します。
正直薬品の知識がない人が
扱えるようなものではありません。
液相法で使う薬品は
酸化マグネシウムの分散体液なので
気相法の薬品よりは安全に
取扱できそうです。
しかしこの薬品
ちょっと購入が難しそう。
市販されているのは
酸化マグネシウムのナノ粒子が
IPA(イソプロピルアルコール)に
分散している液だと思います。
しかしこの液は化学薬品を
取り扱っている会社とか
研究室とかで使うもので、
一般的に購入できる液ではありません。
液そのものはアルコールですから
可燃性ではあるものの
そこまで危険でもないので
いいんですが。
その他BK法の一つとして、
酸化マグネシウム分散液を
スプレーで吹き付ける
という方法もあるそうです。
これは冊子ではなくて
一枚物の紙に対して行われるようです。
いずれにしてもここで紹介した方法は
個人が出来るレベルではなさそうです。
酸性紙の中和 その他の方法
水に濡れても乾かせば大丈夫な
1枚ものに対してになりますが、
炭酸水素マグネシウム水溶液を
紙に刷毛で塗る方法もあるそうです。
炭酸水素マグネシウム水溶液は
水酸化マグネシウム水溶液に
ソーダバルブで炭酸を注入し、
冷蔵庫で冷やして作るそうです。
多分水酸化マグネシウム水溶液で
炭酸飲料を作る感じになると思います。
これは水酸化マグネシウム(スイマグ)も
炭酸も入手しやすいので
個人でも出来るかもしれませんが
紙に塗るのが水ですから
紙の耐水性とか
その辺は確認が必要ですね。
なお、DAE法、BK法でも
コート紙には効果が薄く、
ジアゾ感光紙は反応して変色するので
使えないんだとか。
酸性紙の劣化防止は
本気でやると本当に大変だと思います。
酸性紙の劣化防止 個人で出来ること
ここまでは図書館が酸性紙の劣化に
どんな風に対応しているかという話でした。
本気で酸化劣化を止めるなら
これくらいのことをしないといけない。
ですが個人がこんなの出来ません。
ということでせめてもの次善策として
なにか対応方法があるかなんですが。
一つは湿度が安定している
冷暗所に保管すること。
光が当たると紙は劣化するのと
温度が上がると化学反応が促進される。
それから紙は湿度が変化すると
水分を吸放湿します。
湿度が上がると硫酸バンドが
硫酸になりやすいのでそれは避けたい。
あとは空気と触れない方がいいので
真空パックをする。
ジップロックとかでもいいと思います。
でもきれいに保管したいから
真空パックしたので本が読めません
というのはいくらなんでも
ズレてると思うんですよね。
別に国宝を保存しよう
というわけではないんですから。
管理人の本音は個人レベルでは
そこまで酸性紙の劣化には
こだわらなほうが健全じゃないか
と思っています。
内容が重要ならばスキャンするとか
中性紙のコピー用紙にコピーするとか
電子書籍があるならそれを買うとか
もっと簡単な保管方法があります。
本そのものが重要ならば
真空パックかも知れませんが。
管理人のまとめ
今回は酸性紙の劣化対策について
お伝えしました。
図書館では本当に苦労して
酸性紙の保存をやってるようです。
個人レベルでは
あまり光の当たらない部屋で
普通に保管するくらいしか
方法はないように思います。
もしくはデータ化して保管ですかね。
酸性紙の劣化防止は難しいですが
本は丁寧に扱えば長持ちします。
少しでも寿命が伸びるように
本を大事にして下さいね!
(参考)
こんな記事も読まれています。
厚紙の印刷はどこで出来る?キンコーズかネット印刷が便利!
⇒https://kamiconsal.jp/atugamiinsatudokode/
コピー用紙をコンビニ持ち込みできる?基本的に出来ません!
⇒https://kamiconsal.jp/copypaperconvinimotikomi/
紙の折り目を消す方法はある?低温でアイロンをかけるとマシ
⇒https://kamiconsal.jp/kamiorimekesu/