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管理人の紙コンサルこと、べぎやすです。
この記事では、紙の「白さ」を左右する重要な要素である「水」と、その水が不足した際にどういった影響が出るのかについて詳しく解説します。
管理人は元製紙会社の社員として、現場で実際に経験してきた知識やエピソードをもとに、「紙の白色度」と「節水」の間にある関係性についてお伝えします。
紙の白色度は水が濁ると低くなる。節水すると水は濁る?
紙の製造において「水」は不可欠な資源であり、その使用量は他の多くの産業と比較しても極めて多く、特に抄紙工程では大量の清水が求められます。紙の原料であるパルプは、水に均等に分散されることで初めて薄くて均質なシート状の紙として成形可能になります。製紙の初期段階では、1%にも満たない濃度でパルプが水に浮遊しており、これを高速で走る抄紙機に流して脱水・乾燥していくのが基本的な工程です。
最終的な紙には6〜7%程度の水分が残るだけで、実に90%以上の水が蒸発・排水されるか、循環利用される形で使われています。したがって、使われる水の量と質は、製品の品質に直結する極めて重要な要素です。特に「白色度」は、水の透明度や含有する微細成分の影響を受けやすく、使用水に不純物が混ざるとパルプの繊維間にその影響が及び、白さが鈍くなってしまいます。
ここでいう「白色度」は、単に人の目で見た感覚的な白さではありません。製紙業界では、JISやISOで規格化された「ISO白色度」という測定基準が使われており、457nm付近の青色光の反射率を数値化したものです。酸化マグネシウム標準白板を100%、黒を0%として測定するため、数値が数%変わるだけでも、実際の見た目では黄ばみやくすみとして認識されることがあります。
このような背景から、製紙業界では「水の管理」が品質管理の根幹に位置付けられているのです。ところが、夏場の渇水や長期的な干ばつなどの自然環境の変化により、水源であるダムや河川の水位が低下すると、工場への取水が制限されるケースがあります。このような状況では、工場は再利用水(再生水)を用いることで対応せざるを得ません。
再生水は、工程排水をろ過や薬品処理して再利用できるようにした水で、ある程度の清浄度までは回復できます。しかし完全に川から得られる清水と同じ状態にはならず、微量の有機物や無機物が残留する可能性もあります。また、処理施設の運転にはコストがかかるため、どこまで清浄度を高めるかは、品質と経済性のバランスの上に成り立っています。
実際の製紙工場では、抄紙工程で発生した「白水」をディスクフィルターや加圧浮上装置などで処理し、繊維分や微細な填料を回収しながら循環利用しています。ただ、節水を進めて白水循環のクローズド化率が高まると、系内にはデンプン、顔料、染料、薬品残渣、さらには鉄やマンガンなどの微量金属まで徐々に蓄積していきます。
この蓄積が進むと、単に「水が少し濁る」というレベルでは済まなくなります。例えば、再利用水に含まれる微量の鉄イオンは、抄紙機の乾燥工程で酸化されることで黄ばみの原因となる粒子に変化し、セルロース繊維へ付着しやすくなります。すると、人間の目が黄ばみとして感じやすい青色光領域の反射率が低下し、結果としてISO白色度が落ちてしまうのです。
さらに、白水系の循環率を高めすぎると、今度は微生物の問題も無視できなくなります。白水の中には紙力剤として使われるデンプン成分も含まれているため、酸素不足の状態になると細菌が繁殖しやすくなります。これによってスライムと呼ばれる粘着性の汚れが配管やワイヤーに付着し、断紙や黒点トラブルの原因になることもあります。
そのため、近年の製紙工場では、単純に「水を減らす」のではなく、エアレーションによる酸化還元電位(ORP)の維持や、バイオサイドによる微生物制御、高濃度洗浄が可能なドラム式パルプウォッシャーの導入など、水を循環させながら品質も維持するための技術投資が重要になっています。
特に「白色度」が命である「上質紙」は、使用するパルプもすべてが漂白済みの高品質なLBKP(ラフト漂白広葉樹パルプなど)に限定されるため、水の質がわずかに悪くなっただけでも、白さに微妙な変化が生じることがあります。製品の白色度が規定値を下回ることは稀ですが、設計値の下限近くでの製造を余儀なくされるケースも出てきます。
高白色の上質紙では、一般的に白色度80〜88%以上が求められることが多く、漂白工程でも過酸化水素濃度1.5〜2.0%、アルカリ濃度1%前後といった条件を細かく管理しながら洗浄を行います。つまり、白い紙を安定して作るためには、原料だけではなく「十分に清浄な水」が前提条件になるわけです。
一方で、新聞紙、更紙(ざらがみ)、中質紙といった比較的白色度の基準が緩い紙では、黒パルプ(未漂白パルプ)との混合比率を調整することで白さの調整が可能な場合があります。新聞用紙であれば白色度55%前後、グリーン購入法適合の再生コピー用紙であれば70%程度が一つの目安です。
ただし、この調整にも限界があり、パルプの配合計画全体を見直す必要が出てきます。これは在庫管理、投入計画、操業日程にまで影響を及ぼし、結果として、調整作業が増えれば増えるほど現場の負担とコストが膨らんでしまいます。
また、白色度70%前後の再生コピー用紙については評価が分かれる部分もあります。モノクロ中心の社内文書であれば十分見やすいと感じる人も多い一方、カラーグラフや販促資料では「少し暗く感じる」「色の発色が沈んで見える」と感じるケースもあります。これは紙そのものだけでなく、オフィス照明の色温度やLED環境、印刷内容によっても印象が変わるため、一概に良し悪しを断定できません。
逆に、古紙配合率を高めながら白色度80%以上を求めると、脱墨や漂白の工程で薬品や洗浄水を多く必要とする場合があります。つまり、「再生紙だから必ず環境負荷が低い」と単純には言えず、白さをどこまで求めるかによって、水や薬品の使用量も変わってくるのです。
製紙工場の節水は何%程度まで出来るのか?
ここでは実際の製紙工場での経験に基づいたエピソードをご紹介します。
管理人がかつて在籍していた製紙工場では、異常気象による深刻な水不足に直面し、過去に最大で65%の節水を強いられたことがありました。この水準は、通常時に使用していた水量のうち、実に3分の2近くを再利用水や処理水に切り替えたことを意味します。このような事態は製紙工程に大きな影響を与え、工場全体の操業に深刻な影響を及ぼしました。
当時の現場では、「どこまで白色度を落とさずに持ちこたえられるか」というギリギリの調整が続いていました。特に上質紙系は、わずかな濁度変化でも品質に影響が出やすいため、水質データや抄紙機の状態を常に確認しながら運転条件を詰めていく必要がありました。外から見ると同じ白い紙に見えても、現場では数値の数%を維持するためにかなり神経を使っていた記憶があります。
大型の抄紙機は常に一定の水圧と流量を必要とするため、完全に停止させるわけにはいかず、運転の継続が優先されました。その一方で、比較的小規模な機械や非連続系のラインを一時的に停止し、操業スケジュールをずらすなどの工夫が重ねられました。こうした対応は、生産性の低下や段取り替えの増加といった副次的な負担をもたらし、現場では緊張感の高い状態が続いたのです。
新聞紙や中質紙では、黒パルプの配合比率を変えることである程度の白さ調整は可能でしたが、その影響で濾水性や乾燥条件まで変わってしまうことがあります。すると、蒸気使用量や乾燥速度の調整も必要になり、単に「色を合わせる」だけでは済まなくなります。原料配合の変更が、最終的には工場全体の操業計画へ波及していくわけです。
また、節水率を上げれば上げるほど、白水系の管理難易度も上がります。循環水の滞留時間が長くなると、温度上昇や有機物濃度の増加によって微生物が繁殖しやすくなり、スライム障害や悪臭リスクも高まります。特に無対策でクローズド化を進めると、抄紙機ワイヤーの目詰まりや断紙の頻発につながるため、現場では水を減らすだけではなく「水質をどう維持するか」が常に課題になっていました。
一方で、近年は高度水処理設備やUF膜によるろ過、エアレーション設備の導入によって、循環率を高めながら品質を維持する工場も増えています。ただし、これらは設備投資や維持コストも大きく、どの工場でも簡単に導入できるわけではありません。環境対応と品質維持を両立するには、単純な精神論ではなく、かなり高度な操業技術とコスト判断が必要になります。
幸運にもその後に雨が降り、水位が回復したことで事態は改善しましたが、この経験から得られた教訓は非常に大きなものでした。水資源の管理は一企業の判断だけで完結するものではなく、水利権や地域の水道計画、行政との協議といった社会的な枠組みの中で調整されるべき問題です。
また、環境に対する配慮も必要不可欠です。製紙業は排水処理や水質保全の観点からも厳しい規制を受けており、水の使用をめぐる制限は今後さらに厳しくなることも予想されます。実際、グリーン購入法では、コピー用紙などの非塗工印刷用紙について「白色度70%程度以下」が環境配慮基準として設定されています。これは過剰な漂白や洗浄による水・薬品消費を抑える考え方が背景にあります。
ただ、実務では「環境配慮」と「見た目品質」の間で悩む場面も少なくありません。社内文書なら問題なくても、顧客向けの提案書や販促物では高白色紙が求められるケースもあります。実際に、白色度70%前後の再生紙へ全面切替したあと、カラー資料の視認性や印象面から高白色紙へ戻した企業の話を聞くこともあります。
つまり、紙選びに絶対的な正解があるわけではなく、「どんな用途で使うか」「どこまで環境負荷を抑えたいか」「どのレベルの視認性や発色が必要か」によって最適解は変わります。現場では、そうした条件のバランスを取りながら操業や調達が行われているのです。
実際、原料があっても水がなければ紙は作れません。管理人の実感としては、原料供給のトラブルよりも、水不足による影響の方が工場全体の稼働に直結しやすく、より深刻な問題として認識されていました。
管理人のまとめ
今回は「紙の白色度」と「節水」との密接な関係について、実例を交えながら解説しました。
紙という製品は、水を大量に消費することで成り立っています。その中でも「白さ」を保つには、単に水を確保するだけでなく、その水の清浄度を維持する必要があります。節水によって水を再利用する割合が増えると、たとえ見た目に透明でも、わずかな不純物の影響で白色度に影響が出てしまうこともあります。特に白色度の規定が厳しい上質紙のような製品では、こうした変化が品質に直結してしまいます。
また、白水循環を極端にクローズド化すると、微生物や有機物の蓄積によるスライム障害、悪臭、断紙などの操業トラブルも発生しやすくなります。逆にいえば、製紙工場の節水とは単純に「水を減らす」話ではなく、「品質を維持できる範囲で循環率をどこまで高めるか」を見極める技術でもあります。
もちろん、高度な浄化処理を施せば再生水も清水に近づけることは可能です。しかしその分だけコストがかかり、全工程に導入するには現実的な制約があります。どこに水を使い、どこでリサイクル水を利用するかの判断は、工程全体の設計にも関わってくるため、非常に繊細で戦略的な要素でもあるのです。
一方で、現在の製紙業界では、高濃度洗浄型のパルプウォッシャーや高度水処理設備、曝気設備などを活用しながら、「節水しても白さを落としにくい仕組み」を作ろうという技術開発も進んでいます。つまり、環境対応と品質維持は完全な二者択一ではなく、技術によって両立を目指している段階に入っています。
製紙業の現場では、「水はただの資源ではない」とよく言われます。それは、水が品質、コスト、環境すべてに関係する極めて重要な要素であり、そこに知見と技術をどれだけ注げるかが企業の競争力に直結するからです。
また、紙を使う側にとっても、「白い紙ほど環境負荷が低いとは限らない」という視点は意外と見落とされがちです。例えば、モノクロ中心の社内文書なら白色度70%前後の再生紙でも十分実用的なケースがありますし、逆に写真やプレゼン資料では高白色紙のほうが適している場合もあります。用途によって使い分けることが、結果として無理のない環境配慮にもつながります。
この記事を通じて、普段私たちが手にする紙が、どれほど繊細なプロセスを経て生まれているのか、そしてその背後にある水資源の重要性について、少しでも理解を深めていただけたなら幸いです。
日常生活では意識されにくい「水が十分に使える環境」のありがたさを、紙の製造という視点から再認識していただければと思います。
(参考)
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