管理人の紙コンサルこと、
べぎやすです。
このカテゴリのお話は
紙の規格についてです。
紙の規格というとA4とかB4とかの
サイズを思うんじゃないでしょうか?
それはもちろん正しいんですが、
サイズ以外にも色んな規格があります。
たとえば品種の定義。
上質紙ならバージンパルプ100%、
というのが本来の規格です。
バージンパルプというのは
木材から取り出して
初めて紙に使うパルプ
という感じですね。
ようするに古紙ではない、
ということです。
しかし技術が進歩して
高白色度の古紙パルプが
製造できるようになり、
上質紙の定義も変わってきました。
以前は再生上質紙とかいわれると
バカにされてるような気がしましたが、
今では違和感もなく
再生上質紙と呼んでますし。
どの分野でもそうですが
ユーザーニーズがあると
それに見合った技術が出てきて
これまで明確だったはずの線引が
あいまいになっていくようで、
変化の少ない紙でもそれは同じこと。
ということでこのカテゴリでは、
紙の規格、特に品種の規格について
具体的な例をあげて
お伝えしたいと思います。
【紙の規格は変化している】
紙の規格といえばA4サイズなど、
紙の寸法に関するものを思いつきます。
しかしそれ以外に
品種に関する規格も色々あります。
たとえば先述した上質紙。
製造方法として
バージンパルプ100%だったんですが、
もう一つ、白色度75%以上
という規格もあるんです。
白色度は文字通り白さのことです。
実際に使うユーザーにとっては
パルプ配合よりも白色度の方が重要。
白さは見た目で分かりますし、
実際に印刷したときの見栄えに
大きく影響するので
白色度が高ければOKなのでしょう。
品種とか品質的な規格は
ときどきこういうことが起こります。
上質紙の場合なら、
最初に規格を決めた時には
古紙配合するなんてありえない
ということだったと思うんです。
当時の技術では。
いずれ技術が進歩して
黄白色の古紙パルプを配合すると
予想した人はいたと思いますが
そこまでの規格にはしなかった。
ところがその後エコが広がってきて
どんな紙でも古紙配合となった。
元々古紙の入っている
新聞紙、中質紙や更紙、段ボールなどは
古紙配合率を上げるわけですが、
上質紙はそうはいかない。
古紙を配合しないというのが
上質紙の本来の規格ですから。
その定義を曲げてでも
社会的な問題として対応した。
仕方なしに上質紙にまで古紙を入れた
というのが実際ですね。
そういえば。
以前日本製紙で古紙配合率の偽装が
問題になっていました。
元製紙会社社員の立場でいうと、
本来の品質を確保するために
古紙が配合出来ないのなら、
品質確保を優先するのは当然。
それが上質系の紙だったらなおさら。
問題が発覚した当時の意識レベルは
そういうものだったと思います。
それは製紙会社だけの問題ではなく、
ユーザー側もそうだったんですね。
印刷会社も版元も
社会的なイメージがあるから
古紙を入れておこう
というスタンスですから。
なんとなくちょっとは入ってますよ、
という感じでお茶を濁していたわけです。
元製紙会社社員として
もうちょっとこの話をすると、
なんでバレたんだろう?
というのもあるんです。
正直に言うと
古紙入りかどうかというのは
紙を見ただけでは分からないし、
分析しても分からない。
紙を見ただけで分からないのは、
古紙を入れても品質的に
遜色ないものを作るんですから
これは当然だと思うんですよね。
しかし紙を分析してパプルを確認しても
古紙かどうかの区別はつかない。
パルプ繊維を見れば
このパルプが針葉樹か広葉樹か
クラフトパルプか機械パルプか、
というようなことは分かるんです。
でもパルプの使用回数なんて
分からない。
古紙パルプならインクのカスとか
そういうものがあるだろうとなりますが、
分かったとしても配合の有無程度で
配合率までは特定できません。
このニュースを聞いたときは
どんな方法で分かったのか不思議でした。
技術的な方法では
なかったのかも知れません。
もう一つ古紙配合率でおかしいのは
古紙設備がないのに
古紙配合品を品揃えしていた
メーカーがあったこと。
古紙パルプを購入していると
いうことなんでしょうが、
それで採算が取れるのか、
というのが疑問でした。
だいたい日本の古紙設備から
出てくる古紙パルプの量と
古紙配合品の製品量が
見合ってるのかも疑問でしたし。
結局この問題は
日本製紙連合会として謝罪して
終わったようですが、
出来ない約束をしていたようなもの。
古紙配合率という規格と
紙の品質という規格の
整合性を考えずに
イメージで決めたのが間違い。
現在どうなっているかは知りません。
しかし守れない規格を押し付けられて
困っている人は多いだろうと思います。
こんな感じで品質規格とか
品種の定義は実情に合わせて変化し、
明確に決まっているようで
そうでもないんですね。
【紙の規格 ISOについて】
ここからは元製紙会社社員の本音を
お話させて下さい。
管理人が製紙会社に在籍していた頃、
会社はISO規格を取得していました。
ISOの正式名称は、
国際標準化機構(こくさいひょうじゅんかきこう)
英: International Organization for Standardization、
略称 ISO(アイエスオー、イソ、アイソ)
だそうです。
製紙会社ですから
紙の品質とか操業に関する規格です。
自分たちで規格を決めて
自分たちで守る。
自分で決めたルールなんだから
自分たちは守れるだろうということ。
でもこれっていまいちなんですよね。
最初のうちはこうあるべきだ
というルールを設定するんですが、
それは理想論なので
やってるうちに守れなくなるわけです。
自分で決めたルールなのに守れない
となるとISOに合格出来ません。
じゃあどうするか?
ハードルを下げるわけです。
たとえば紙厚のばらつき範囲が
60±2μmだったとすると、
これをを60±4μmに変更して
全部基準内に入るようにするとか。
自分たちでルールを決めるので
全部入る規格にしてしまう。
こんなことやって
品質管理の意味があるのか
会社の見栄だけでやってる
規格じゃないのかと思ってましたね。
なんだか書類が多くて面倒だ、
ということばっかりでした。
どこの会社もやってるから
見栄えのために取得してるのか、
そんなことを思いながら
書類を作成してましたね。
こんなことやってると
2重帳簿みたいに
本来の品質規格と
ISO向け規格が出来てきて
ごまかすための書類作成が
仕事になるという感じでした。
製造会社において品質規格や
手順書は最重要項目なのに
本質を忘れてしまったら
どうなるんだろうと思ってました。
運用がおかしいと
企業自体がおかしくなる。
色々と不祥事が出てくるのは
こんなところにも原因があるのかと
思ってしまうんですが
考えすぎなんでしょうか。
【管理人のまとめ】
今回は紙の規格についてでした。
紙の規格というのはサイズだとか
重さ厚さもありますが、
この紙はどんな基準で作られているのか
というのも規格になります。
紙に限らず品質規格には
一定の基準があるわけで
その品質基準に入るように
パルプ配合だとか重さなんかを調節する。
再生上質紙を例に出しましたが、
規格が時代で変わることもありますし、
品質と古紙配合率のように
相反する規格もあります。
いずれにしても。
元製紙会社社員としては
紙の製造には規格はあるし、
その規格も時代とともに変化して
ユーザーニーズに応えようとしている、
そんなことを分かっていただけば
古紙配合率の偽装問題などという
業界的に恥ずかしい話題を例にして
説明した意味もあったかなと。
紙を上手く使って下さいね!